●医療講演会の報告
  〜岡山大学方式人工網膜・JRPS東京医療講演会〜

会長 佐々木 裕二

 6月26日、JRPS東京の医療講演会に参加してきました。
 演題は『失明した患者さんに再び光を 〜岡山大学方式人工網膜(OUReP)の実用化への取り組み〜』というものでした。
 講師は、岡山大学医学部 松尾准教授と、同じく岡山大学 工学部 内田准教授でした。講演は、前にお二人の先生が並んで交互にお話しされ、その度に質問を受けるスタイルで、スライドは使われませんでした。以下その概略です。


●治験の開始
 4月に治験登録を目指していたが、Pmda(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)より、もう少しテストをするようにと言われ、まだ治験は開始できていない。11月に再度申し込む予定である。

●岡山大学方式人工網膜(OUReP)の特徴
 RPは視細胞が死んで数が減ってしまうが、その先の双極細胞や神経節細胞、視神経は生きている。そのため視細胞の代わりに、光の刺激を電気信号に変えて伝えることができれば、その先は生きているので光を感じることができる。これが人工網膜の基本的な考え方である。

1.構造がシンプルである
 アメリカのアーガスUや大阪大学の人工網膜は、カメラの映像をコンピュータ処理して、網膜の近くに置いた電極で神経を刺激する方法である。そのため電子機器や電源が必要で、装置や手術が大がかりであり、費用も莫大である。
 OURePは、ポリエチレンフィルムに、光を受けると電位差を生じる光電変換色素を付着し、網膜下に挿入するシンプルな構造で、電子機器ではない。

2.解像度が高い
 アーガスUは60個の電極、大阪大学は49個の電極で見せる。
 OURePは光電変換色素ひとつひとつの電位は小さいが、ひとつの神経節細胞に、1億個の光電変換色素が対応するので、十分な電位差が得られ、解像度は人の眼と同じくらいではないかと考えられるが、やってみないと分からない。

3.光感度特性
 可視光線のみに反応し、紫外線や赤外線で神経を刺激することはない。50ルクスの明るさでも反応するので、かなり暗いところでも見えると思われる。

4.手術が比較的容易
 電極アレイのような大きなものではないので、手術が容易である。
 網膜下(色素上皮と視細胞の間)に水を注入し、網膜剥離を起こす。その隙間にフィルムを挿入する。水を抜いて穴をレーザーで焼いて閉じる。硝子体に空気またはシリコンオイルを入れる場合もある。
 人工的に網膜剥離を起こすので、見えている部分には使えない、使わない。

5.たぶん安価
 アーガスUは1500万円。
 OURePは、ポリエチレンフィルムと、手術も既にある技術なので、安価と思われる。

●現在の段階
 コンセプトはシンプルだが、実現は困難だった。
 純粋なポリエチレン素材を持っているところはあったが、医療用に人体に使用するというと断られた。やっと探し当てても、フィルムに加工してくれるところでまた断られた。
 光電変換色素も同様であった。
 そのため、工学部にクリーンルームをつくって自分たちで作成することになった。地元岡山の企業が、医薬品製造の許可を取って支援してくれている。

●治験
 OURePは医療機器である。
 治験は二段階で行われる。第一段階は5名で、安全性とついでに効果を見る。第二段階は20名で、効果を検証する。
 ただし、現在厚労省は日本発の医療を目指しているので、それに乗れれば少ない人数で早く行えるかも知れない。うまく行ったとして、最短2年半くらいか?
 治験に成功すれば、医療機器としての申請と同時に、健康保険適応としての申請も行う。
 第二段階以降は、医療機器の製造販売の許可を持つ企業とタイアップすることで、準備を進めている。

●治験参加の条件
・全盲であること。片眼は手動弁でもいい、全盲の片眼を行う。
・RP以外の眼疾患がないこと。
・白内障の手術はしていてもよい。
・ガン、妊婦、意思表明ができないものは参加できない。
・高血圧、糖尿などは問題ない。
・岡山大学病院に通院できること。
・公募はJRPSを通じても行う。

●その他
Q:フィルムは劣化しないか?どれくらい使えるか?交換できるか?
A:ウサギ6ヶ月、イヌ5ヶ月で取り出して検査しているが、現在問題ない。ポリエチレンは、人工関節の表面に使われていて実績がある。将来的に高性能なフィルムができた時などは、前の物を取り出すことなく、上に重ねることで対応できると考えている。厚さ40ミクロン

Q:見えている中心部を除いて、見えなくなった周辺にドーナツ状に入れることはできるか?
A:周辺部だけ網膜剥離することは困難。ドーナツ状ではなく何個か入れて視野を広げることはできるかも知れない。
 直径5ミリのフィルムを入れると視野は約30度になる。直径10ミリくらいまで入れられると考えている。

Q:特許はどうなっているか?
A:特許庁と何度か協議している。向こうが積極的でプッシュされている。OURePは商標登録している。

Q:治験の費用はどうなっているか?
A:ボランティア参加である。医療費はかからない。交通費はまだ考えていないが出せるようにしたい。術後の通院は自己負担。

◆感想
  人工網膜はサイボーグのようだと思っていましたが、この岡山大学方式は極めてシンプル。治験の条件は全盲ですが、治療法として確立されれば、進行した際のセフティーネットになる可能性があると思います。期待したいですね。