●医療講演会の報告
  〜小沢洋子先生の講演ハイライト〜

役員・神田 信

 今年度の医療講演会は、「最近の網膜変性疾患に対するアプローチ」と題して慶応義塾大学小沢洋子先生にお話しいただきました。
 先生は、網膜色素変性症を治す薬はまだ開発されていないと前置きされ講演を始められました。しかし、近い将来には病気の進行を止める、もしくは進行を遅らせる薬の完成が約束されていると感じとったのは私だけではなかった様に思います。以下、講演の要旨です。

 我々が取り組んでいる網膜の研究は、世界中で様々な方法で行われている。大別すると、人工網膜、細胞の移植、進行の予防の3つになる。
 人工網膜は、目の中に電極を埋め込み、脳を直接刺激する方法。細胞の移植は、昨年行われた理化学研究所の高橋政代先生によるiPS細胞を使った網膜色素上皮の移植手術。その他、視細胞の移植も動物実験であるが研究は進んでいる。
 病気の進行予防は、遺伝子治療、神経保護治療の薬を開発して行うことになる。薬を開発するには、病気のメカニズムを解明する必要があり、これまで病気の網膜を採取し研究することはできなかった。しかし、iPS細胞により病気の網膜細胞を作製することに成功し、それが可能となった。

 我々が行った実験では、ロドプシン遺伝子に異変を持つ患者さんのiPSから視細胞を作製し、正常なものと比較した。結果、患者さんの視細胞は小胞体ストレスが上がり、アボトーシスが増え細胞が早く死んでいくことが確認できた。小胞体ストレスとはDNAから作るタンパク質が正常なものを作れなくなったとき、小胞体に詰まり正常なタンパク質も運べなくなることを指す。実験で幾つかの薬材を視細胞に投与すると、ラパマイシンなどが効果が高いことがわかった。それにより、ロドプシン遺伝子が異変したこの患者さんには、ラパマイシンを投与することにより細胞が生き延びることがわかった。
 しかし、別の遺伝子変化を持つ患者さんには、それぞれの病気のメカニズムにあった薬剤を探す必要がある。
 この神経保護治療を行えば、人間の細胞は強いため死にかけた細胞も蘇らせる可能性も秘めている。まずは、病気の進行を遅らせたり止めたりすることであるが、それもまだまだハードルはある。臨床実験でも長い期間が必要となるが、一歩一歩確実に進んでいきたい。
 先生は、網膜色素変性症の理想の治療は、早期発見、早期神経保護治療、遺伝子に異常があっても網膜に影響が出ないようにすること。
 治療法が確立されれば、生まれた時に一斉診断を行い遺伝子異変にあわせて薬を飲めば網膜色素変性症は症状を抑えられる病気になるとおっしゃられていました。
 最後に、日夜研究に励まれている慶応義塾大学のメンバーの写真をスライドで映されました。小沢先生を始め、我々のために日々頑張ってくださっている方々に感謝しつつ、期待をしたいと思います。
スライドを使った講演風景 マイクを持って話す小沢先生
**この講演会は「神奈川新聞歳末たすけあい」の配分金により開催しました。**