●医療講演会の報告
  〜山本修一先生の講演ハイライト〜

役員・佐藤 孝

 6月1日に横浜市中区の日本赤十字社神奈川支部会議室でJRPS神奈川支部定期総会に続き、医療講演会を開催しました。講演内容は、現在治療法が確立されていない網膜色素変性症に係る臨床試験の国内における取組状況と海外の臨床試験の例を交え、千葉大学病院の山本修一先生が分かりやすく説明してくださいました。以下は山本先生の講演ハイライトです。


【山本修一先生の講演ハイライト】
◆目の病気の現状について
 近年、ほとんどの目の病気は治療法ができ治るようになりました。最近では加齢黄班変性症の治療ができるようになりました。しかし、網膜色素変性症は、目の病で最後に残った不治の難病です。光を感じる目の細胞には杆体と錐体があり、網膜色素変性症では、遺伝子の異常で杆体が徐々に侵され、目の中心にある錐体が最後に残っているのが特徴です。その原因は、172個とも200個とも言われている様々な遺伝子の異常が原因とされています。

◆治療法の研究について
 そこで、治療法の研究として考えられるのが、原因とされる遺伝子に対する遺伝子治療。神経細胞の障害を止める神経保護という治療法。さらには人工網膜や再生医療の考え方があり、病気を克服するため様々な取り組みが行われています。

◆臨床試験の内容について
 新しい治療法や治療薬を開発するために臨床試験を行う必要があります。新しい治療法が、新しい治療薬が安全で効果がでるかどうかを確認するための試験であり、臨床試験には段階があり長い年月とお金がかかります。
 最初は動物実験から入り効果が期待出来たら、第一相の臨床試験に移行します。この段階の試験は、新しい治療法、新しい治療薬が安全かどうかの試験を行います。安全性が確認されたら第二相の臨床試験に入り治療法、治療薬が効くかどうかを確認する試験を行います。ここで効果が確認できると、より多くの患者さんを対象に行う試験が第三相の臨床試験です。その試験で安全性と有効性か確認されると、薬事法に基づく厚生労働省の審査を受け使用することが可能となります。

◆遺伝子治療の事例について
 遺伝子治療の成功した代表的な例で、原因遺伝子が解明できた『レーベル先天盲(RPE65という遺伝子が欠損している網膜色素変性症の極めて特異な症例)』の患者さんを対象に遺伝子治療の臨床試験が海外で進められています。
 レーベル先天盲は、RPE65という遺伝子が欠損しているため、子供のころに発症し早い時期に失明する病気です。そこで、欠損している遺伝子を注入し治療が出来ないかという考えで最初、犬による動物試験を行いました。効果が確認できたので、第一相の臨床試験を、19歳から26歳の失明しているレーベル先天盲の患者さんに対し実施しました。当初は大幅な効果は期待できないと考えていたところ、視野も改善しほとんどの患者さんが見えるようになり、第二相臨床試験がヨーロッパやアメリカで進められています。
 では、日本の遺伝子治療はというと、日本人の場合、遺伝子の特定が進んでいない。つまり数百ある病気の原因遺伝子を解明しなければならないことになります。その作業は、できても3割は分かるが7割は分からないと言われていますので、日本での遺伝子治療はまだ時間がかかります。

◆神経保護について
 次に、侵されつつある神経細胞の障害を薬で止める神経保護の考え方ですが、歴史的には1957年に日本人の早野先生がヘレ二エン(アダプチノール)を開発しているが、科学的な証明はされてはいない薬ですが、現在でも日本では服用されています。その後、2006年にシービング先生が、毛様神経栄養因子(CNTF)という物質(薬)を開発しました。CNTFは視細胞の変性を抑える効果のある物質で、原因遺伝子がなんであっても効果がでる薬です。方法はCNTFを持続的に作り出す細胞をカプセルに詰め、そのカプセルを目に埋め込む治療法で、試験後に検査をしたところ、視力は上がらないが錐体細胞の密度が減らない、錐体細胞が死なないという効果が確認されました。アメリカでの臨床試験でこれから第三相の試験に入ろうとしている。かなり有望な試験だと考えられます。

◆ウノプロストンについて
 さて、千葉大学病院などで研究を進めているウノプロストンですが、もともとは緑内障の治療薬として開発された薬で、@血液の流れを良くするA視細胞を保護するB眼圧を下げる。この三つの効果を併せ持つ薬です。最初、千葉大学病院でウノプロストンでの投薬で効果があるかどうかの自主臨床試験を行った結果、40パーセントの患者さんで光に対する感度が良くなったことを確認したので、第二相の臨床試験を100人の患者さんを対象に、千葉大学病院を含め6施設の大学病院で実施しました。対象の患者さんは視力0.5以上の比較的視力の残っている患者さんを三つのグループに分け、各研究施設で半年間試験を実施し、網膜中心部での光を感じる感度やQOLの質の向上が見られました。
 現在、第三相の臨床試験に移行し200人の患者さんを二つのグループに分け試験を行っています。今年中には結果がまとまり、来年には良い話が出来ると思います。

◆人工網膜について
 人工網膜についての研究ですが、日本の場合、大阪大学の不二門先生が第一人者として研究を進めています。その発想は、光を電気に変えて信号として脳に伝えるという考えです。アメリカとドイツが進んでいて、ドイツでは治療法の一つとして既に治療が行われています。(治療費は約1千万円)

 その他の取り組みとして、高橋政代先生が取り組んでいるiPS細胞による治療法の研究が紹介されましたが、網膜色素変性症への臨床研究の取り組みにはまだ時間がかかりそうです。

 最後に、白内障の手術と網膜色素変性症の関連について、手術での効果を予測することができる検査として、OCT検査(光断層検査)の説明がありました。この検査は視細胞の構造の状態を検証することが可能になり、手術の効果が判断できるようになってきたようです。

 以上が講演ハイライトですが、私たちの最も気になる治療法は、まだもう少し時間がかかるようですが、山本先生を含め多くの先生方が私たち患者のため日夜情熱をもって取り組まれています。今後も希望を持ちチャレンジする先生方を注目していきたいと思います。