横須賀市・内田 知
手術前、この痛みから解放されるなら、他の痛みなどガマンすると決意していたが、現実に術後の痛みを味わうと、そんな思いはフットンでしまう。痛いものは痛い、つらいものはつらいのである。だが、子供のように泣き叫ぶことはできない。だから苦痛に耐えた。ただ、傷口の痛みの他に、下半身に妙な違和感と針で刺されているようなチクリチクリする痛みを感じていた。それも、耐えられない痛みではなく、イライラ感を与える痛みなのである。
なんとも言えない喪失感が…
それを、看護婦さんに訴えると、「尿管に管を通して、そこからオシッコを流しているから・・」と言われた。看護婦さんの説明を聞き終わった一瞬、今まで感じていた痛みが消えた。ただただなんとも言えない喪失感を感じたウッチャンだった。
自分のオ○○○○を、誰かがつまんで・・。それをだれがやったのかと考えれば、答えは一つ。病室を訪れ、優しく声をかけてくれている看護婦さんの中の一人なのだ。そう考えると、(なんてこった)と、心の中で力なくため息をつくしかない。それでも、がまんにも限界があるからなんとかしてほしいと頼んだのである。
この願いは、すぐに聞き届けられた。「ちょっと待っててね」と返事をして、病室を出た看護婦さんが、ほんの数分で戻って来た。そして、「体を左右どちらかに向けられますか」とウッチャンに聞いた。「ハイ」と左を向けると、ウッチャンにかけてあるフトンを体からはずした。でもって、いきなりウッチャンのパンツをおろしたのである。
(エッ、ナニ?)と驚くウッチャンに、「座薬を入れますね」と看護婦さんの一声。「エッ」と声を上げるが早いか遅いかと思う間もなく、オシリに座薬が挿入された。(アーアー、なんてこったぁ)と心の中で叫ぶウッチャン。そして、またも襲ってくる喪失感。そんな思いを知ってか知らずか、にこやかに「2〜3分ぐらいで効いてきますからね」と看護婦さん。その言葉に、返事もできずうなずくのがやっとだった。
しかし、喪失感を味わっただけの効き目はあった。その日の夜は、ゆっくりと眠れたのである。だが、座薬の効きめが消え始めた頃、看護婦さんがやって来て、「尿管から管をはずしますね」と、これまたにこやかに言って手慣れた動きで仕事をすませた。ウッチャンと言えば、あわてふためく。思わず「ちょっと待ってください」と声を上げた。「エッ、どうしたんですか」と看護婦さん。「イヤーソノー」と返事に困っていると、「すぐ済みますから」と本当に素早く終えさせたのである。
時間にして、1分もかかってない。しかし、自分のオ○○○○をつまれる、それも看護婦さんとは言え若い女性に。またまた全身に襲ってくる喪失感。こうなるとオ○○○○を、つままれた日から退院の日までの日々は、聞かれたことを事務的に答えるだけのおとなしいウッチャンになっていた。
真っ黒な石ができるのは?
ところで、ウッチャンファミリーはと言うと、本人の動揺には気がつかない。病人の体調には心配はしても、会話はいつもと同じ。そんな中、甥の勇気が友達を連れて見舞いに来た。勇気の友達は、ウッチャンと顔なじみ。支部の活動を勇気とともに手伝ってくれたこともある少年である。二人は、心配そうに声をかける。それに、来てくれたことに礼を言って、「今は傷口が痛むぐらいかな」と言葉を返す。
そんな会話をしていると、妹が二人に何かを見せた。「ワー、何これ」と驚きの声を上げる二人。「これが、お兄ちゃんのオナカの中で暴れていたんだよ」と、言葉を返す妹。「ヘェ、そうなんだぁ」とまたまた声を揃えて答える二人。「それにしても、この色が・・」と勇気が言うと、「マァネ、でもお兄ちゃんのオナカの中にあったんだから、こうなってもしょうがないかも」と笑った。
ここまで黙って聞いていたウッチャンだが、妹の言葉がひっかかり「しょうがないってのは、どう言う意味だよ」。それに、「そのう、石が真っ黒なのよ」と妹が返事をした。その言葉に「なんだってんだ。おれのハラから出てきたから真っ黒ってのか。それはおれが腹黒いって意味に聞こえるぞ」と強い口調で言い返した。すると、「ウーン、病人を前に言えないなぁ」と大笑いする妹と勇気にその友達。これに、「テメェラカエレェ」と棄てゼリフを吐くウッチャンだった。この一言に、オフクロサンが「そう言う言い方するから真っ黒な石ができるんだよ」とウッチャンをとがめた。言われた本人は、返す言葉はない。病室には、妹たちの笑い声だけが響いていた。
さて、病状はあまりよくなくならず1カ月の入院と、眼が不自由と言う事で、しばらくは外出は控えるように言われてしまった。そして、心の支えとなっていたおじさんの死去もあって、静かな日々をしばらく送ることになるウッチャンだった。そんな中、入院生活を思い出すこともあった。ウッチャンは、いまさらに想う。オ○○○○をつままれて喪失感を感じた自分よりも、そうしたことをすることがあるのを覚悟してにこやかに接してくれた女性達の仕事への情熱とプライドをいつか自分も持てるようになりたいと・・。