お騒がせミステリー ウッチャン失踪事件(パート3)

●ひまつぶし捜査完了 はたしてウッチャンの行方は?

 ひまつぶし集団が向かった先は、リハビリ病院の7階であった。そこは、神経内科と小児科の病棟で、患者たちのほとんどが内科的治療と合わせて、リハビリもしなければならない障害を持っていた。もちろん、小児科の子供たちも同様である。

 入院している者にとって、ひまつぶしする場所となれば、待合室のようになっているエレベーターホールしかない。いつものように、夕食をすませ、消灯時間までの時間を持てあましながら過ごしている患者たちがいた。

 そこへ、ヤマチャンを先頭に、エレベーターから、ガヤガヤと集団が降りてきた。ヤマチャンが、患者たちに声をかける。それに、「久しぶりだねぇ」と答える患者たちだった。

 挨拶もソコソコに、ウッチャンの事を尋ねるヤマチャン。すると、「ウッチャン、また何かやったのか」と患者の一人が尋ね返してきた。その言葉に、ホラ、みんな同じだろ」とヤマチャンがマサオにひと言。これに苦笑いしながらうなずくしかないマサオだった。

 そして、ヤマチャンの問いかけには、その場にいる患者たちの返事は、みんな知らないであった。そんな時、一人の子供が、「今日、1階のエレベーターんとこで、おれ、ウッチャンに会ったよ」と、大人たちの会話に入ってきた。

 その言葉に、「何か話しした?」と、すかさず尋ねるマサオ。これに、「チョットだけだけど」と返事をする少年。「その、チョットが聞きたいんだ」と患者の一人が言った。その言葉に反応するように、「そうそう」と声を上げる面々。そして、内田に会ったと言う少年に、視線を向ける周囲だった。すると、少年は思い出し笑いをしながら話し始めた。

 「リハビリ終わって、エレベーター待ってたらウッチャンが来たんだ。ウッチャンって声をかけたら、オー少年、元気かって言ったんだ。それで元気だよって答えてから、ウッチャンはって聞いたら、おれかおれは、病気になったのもわかんないぐらい元気だぜって言ったんだ」

 ここまで話を聞いていた一人が、「病気になったのもわかんないってのは元気って言うより、ただのバカって感じだよなぁ」と笑いながら言った。これには、周囲もうなずきながら笑い始めた。

 そんなフンイキの中、少年が、「おれもそう思ったから、ウッチャンにそう言うの元気ってんじゃなくて、ただのバカだよって言ったんだ」。そこまで聞いていたヤマチャンが、「バカだって、ウッチャンに言ったのか」と少年に聞いた。

 その言葉に、たとえ相手が、内田だとはいえ、大人に向かってバカと言った事をたしなめられたと感じた少年は、気まずい顔をしながら、「ウン」と小さく応えた。

 その姿を見て、「怒ってるワケじゃないよ、それよりオマエよく言ったぞ。エライエライ」とヤマチャン。これに周囲から「そうそう」と声が上がるだけではなく、拍手する者までいたのである。

 これにホッとしたのか、話し始めた時の笑顔に戻った少年。「それから・・」の周囲の言葉に促されるように話し始めたのである。

 「エーと、おれがバカだよって言った後、バカちゃいまんねん、パーデンネン、なんて言って、へんなかっこしたんだ」。それを聞いた加藤が、たまらず「パーデンネンを1階のエレベーターのところでやったのか」と少年に聞いた。

 すると、「やった」の返事。これに、あきれ顔をしながら「しょうがねぇなぁ」とつぶやく加藤だった。しかし、周囲は大爆笑となっていたのである。少年の話はさらにつづいた。

 「ウッチャンのギャグわかんなくて、バカもパーも同じ意味じゃんかって言ったんだ。そしたら、エッ確かにそうだなって言っておとなしくなっちゃった。それより、周りにたくさん人がいてさ。みんな、ウッチャン見て笑ってんだ。そばにいるおれ恥ずかしくてさ」

 ここまでくると、あきれるか大笑いするしかない周囲。そんな中、何がおかしくて笑っているのかわからないのが、外国人のアイラだった。そして、「パーデンネンって何ですか」と真面目に聞いてきたのである。

 聞かれたら教えるしかない。誰かが説明し始めた。それを、真面目な顔をして聞くアイラ。その姿がなんともおかしく感じてしまうから笑いは収まらない。

 そして、内田の行方はの話はどこへやら。恥ずかしかったと言った少年を慰めると、後は内田をネタに世間話を始める面々。そんな時、看護婦が「そろそろ、消灯時間ですよ」と声をかけてきた。

 その言葉にあわてる加藤。「もう、そんな時間か、佐山さんが待っているかもしれないから早く戻らないと・・」と言った。来たときと同じように、挨拶もソコソコに、エレベーターに乗り込み1階へ戻るひまつぶし集団。

 エレベーターを降りて、明かりの消えた薄暗い廊下を通り施設へ戻る。施設のある建物の1階に到着。エレベーターが来るのを待つひまつぶし集団。

 そんな中、誰かが、「ウッチャン、本当に何でもないよな」と言った。それに、言葉を返す者はなく、重苦しい空気が周囲を包もうとしていた。

 そんなフンイキをうち消すように、「ヘタにシンパイするとソンするぞ。なんたって、相手はウッチャンだからな」とヤマチャン。その言葉に、笑いながらうなずくひまつぶし集団。

 そして、追い打ちをかけるように、「シンパイするより、ウッチャンの言いワケ楽しみにしようぜ。久しぶりにおもいきりツッコミ入れられるネタできたんだからさ。だいたい、何かあったんだったらモット騒ぎが大きくなってるよ」と話すヤマチャン。

 それを聞いて、「確かに、ほとんどひまつぶしのつもりで動いてたからなぁ」とマサオが言った。その言葉に、「それを言っちゃあおしまいだよ」と笑いながら声をそろえてマサオにツッコムメンバーたちであった。

 そんな中、エレベーターが到着。それぞれの階へと戻るひまつぶし集団だった。3階で降りたライトホームのメンバーたちは、佐山の待っているかもしれない職員室へ急いだ。

 そんな4人に、ホールで、帰りを待っていた他の入所者たちが声をかける。「どうだった」の問いかけに、「成果なし」と答えながら、「ところで、佐山さんは?」と尋ね返すマサオ。それに、「8時頃帰ったよ」の返事。その言葉に、気まずい表情を見せる4人だった。

 しかし、「成果なしって言ったけど、何もなくて戻ってくるのがこんなに遅くなるワケ」と待っていた一人が言った。そう聞かれた4人。気まずい表情は一変。含み笑いをしながら「あるある」と返事をした。

 そして、内田の行方の話でなく、更生ホームの仲間や、7階の患者たちから聞いた、内田の話をし始めたのである。

 ところで、この騒ぎに巻き込まれてしまった、最大の被害者、佐山はどうしていたのか。面白半分で、出掛けていったメンバーの帰りを待っていたが、あまりの帰りの遅さにしびれを切らし帰宅してしまったのである。

 家路を急ぐ佐山。車を走らせる事10分。片道二車線の大きな交差点にさしかかった。右に曲がれば家族が待つ我が家。気持ちは右方向なのだが、(ほっとくワケにはいかないしなぁ)と思いながら大きくため息をついて、車を直進させたのである。

 佐山が向かった先は内田のアパートだった。アパート前に車を止めて内田の部屋の方向に眼を向ける。他の部屋からは、明かりがもれている。だが内田の部屋は真っ暗。一瞬暗い思いがよぎったが、内田が全盲である事を思い出し、苦笑してしまう佐山であった。

 明かりがついてなくても居てほしいと願いながら、ドアをノックする。すると、中から「ハーイ」の内田の声。その声に(いてくれたぁ。よかった)とホットしながらも、内田へのムッとする思いがこみ上げてくる佐山だった。

 そんな気持ちを、グッとこらえ「ライトホームの佐山です」と声をかけた。その言葉にドアをあけて驚きながら「佐山さん、どうしたんですか」の内田のひと言。

 これには、「どうしたのじゃねぇぞ、コノヤロー」と声を上げても許される状況だろう。しかし、佐山は堪えた。そして、静かに話し始めた。

 「お母さんから何回も電話があったんですよ。連絡がつかないって」「おれ、どこにも寄らず帰ってきましたよ」と内田の返事。

 「受話器ハズレているんじゃないですか」の佐山の問いかけに「そんな事は・・」と内田。これには、強い口調で「いいから確認してください」と言い返す佐山。その言葉にたじろぎながら、「ハイ」と返事をして電話の前へ。

 受話器をとり、耳をあてる内田。何も音がしない。それは、ハズレていた証拠。思わず「ハズレてる」と驚く内田だった」。(ヤッパリ)とつぶやきながらため息をつく佐山。そして、強い口調のまま、「とにかく、心配しているから、すぐお母さんに電話してください」と言った。

 その言葉に、返事をして、佐山に対して、謝罪の言葉を並べようとする内田。だが、なんと言っていいか言葉が浮かんでこない内田は口ごもってしまっていた。

 その姿にいらつく佐山。それでも、私に謝らなくてもいいからお母さんに電話してください」と、内田に話した。「ハイ」とうなずきながら、まだ何かを言おうとする内田に「電話が先」と念を押した。そして、つかれたように「おやすみなさい」と言って、ドアを閉めて帰る佐山だった。

 佐山が帰った後もしばらくの間、ドアの前で頭をかかえて(マズイナァ)と立ち尽くす内田であった。

 次の日、ライトホームに出勤した佐山によって、内田の無事が仲間に告げられ、事件は解決となる。(エッ、なにそれ。これで終わりかよ)とおもった人がほとんどだろう。事件でもなければ、ミステリーでもない。人騒がせな出来事だったのである。

 しかし、この物語の中心にいるのは、内田である。事件は解決しても、物語は終わらない。人騒がせな事をした者には、おしおきが必要である。そう、内田に天罰が下るのだ。果たして、その天罰とは・・。最終回「必殺ひまつぶし人」で、それは明らかとなる。