「網膜色素変性症」というなにやら長くて難しそうな病名。私たちはよく、短くして「色変」とか「RP」と呼んでいますが、ここではRPと呼ぶことにします。
このRPは目の奥にある網膜に変性が起こり、光を受けて神経に電気信号を送る最初の入口である視細胞が機能低下し徐々に光を感じられなくなってゆく疾患です。症状は進行性ですが、一般的に極めてゆっくりと進むため2〜3年ではどれくらい進んでいるのかほとんど自覚できないほどです。簡単な医学書では「失明に至る。」などと書かれている場合がありますが、進行しつつも最後まである程度の視力を保てる事が多いと言われています。
RPの症状や進行具合は人によって様々です。幼児の頃から症状の現れる人もあれば、50才を過ぎて初めて自覚する人もいます。しかし概ね20代後半から30代で見え方の異常を感じ眼科を受診される方が多いように感じます。そして、若い頃のことを思い出し「そうか、あれはこの病気の症状だったんだ!」と心当たりに気付くことが多いようです。
RPの代表的な症状は、夜盲(暗順応の低下、いわゆる鳥目)、視野狭窄、視力低下です。子供の頃、夜友達がどんどん走ってゆくのに自分は暗くて付いて行けなかったり、溝に落っこちたり、球技が苦手だったり、足元のゴミ箱を蹴飛ばしたり…。そんなことを大概の患者が経験しています。
視野狭窄の最も代表的なものは、中心と最外側を残してドーナツ状に視野が失われてゆくものです。しかし、人によっては中心から見えなくなってゆく場合もあります。
中心が残っている人は比較的視力が保たれるため字を読むことができます、しかし上下左右が見えないため横から来た人にぶつかったり、物につまずいたりします。特に階段は苦手です。一方、中心が見えなくても周囲の視野が残っている人は字を読んだり人の表情を見分けることができなくなりますが、歩行は比較的得意です。
視力低下は視野狭窄に比べても進行が遅いように感じます。そのため病気の自覚が薄いこともあります。自動車の運転免許は視力検査で通れば更新できますが、実際は視野狭窄が進んで横から来る車や自転車に気がつかなかったり、信号を見落としたりします。視野が何度を切ったらというはっきりした指針はありませんが、ヒヤッとしたことが続いたら、運転免許証を返納する計画を立てましょう。
その他にも強い光が眩しかったり、白くぼやけたり、目の前にチカチカと電飾が光ったり、色の見分けができなくなったりする人もいます。また、まれにアッシャー症候群という聴力障害を伴う人もいます。
RPの診断は一般的に眼底検査や視野検査、ERG(網膜電位図、網膜の電気的な反応を調べる検査)で行われています。また、遺伝の場合もあるため血族に同様の目の病気の人がいないかを聞かれることもあります。
RPの原因は遺伝子の異常によって視細胞(錐体と杆体)が機能を停止することにあるようです。そして、その原因遺伝子は一つではなく70種類とも100種類以上とも言われています。しかしそれでも研究は途中でまだまだ多くの原因遺伝子があるのではないかと言われています。ですから、同じRPと診断された患者でも厳密には多くのタイプが存在していると言うことで、症状の多様さもここに原因があるようです。
現在RPの完全な治療法はありません。眼科で行われる治療の代表的な物が「アダプチノール」の投薬です。この薬は唯一RPの治療薬として認められている物ですがRPの原因を取り去るものではなく暗順応の改善薬で暗闇での見え方を改善するものです。その他に、ビタミンAの投与が多く行われていますが、はっきりとした効果はわかっていません。
現在熱心に研究されているのが、進行を遅らせる薬や再生医療です。日本でも新聞をにぎわせる臨床研究や治験が行われるようになりました。そう遠くない将来に何らかの治療法がでてくるものと期待しています。
もう一つ、カメラと視神経や脳をつないで視力を取り戻そうという研究も熱心に行われています。日本でも人に対する手術が行われ物体の動きを見ることができたと報告されています。既に光を失った人にとっては朗報となる可能性があります。
私たち患者が最も心配することはRPが子や孫に遺伝しはしないかということです。実際に患者同士で話し合っても、自分一人がRPという人がほとんどで、両親や祖父母には眼の病気の人がいないことが多いのですが、それでもたまに親や兄弟もRPということが全くないわけではありません。
ここでは、一般的な遺伝形式について紹介します、自分のタイプを知るには家系を調べてRPの患者がいないか調べなければなりません。遺伝子検査の方法もありますが、全ての遺伝子異常が解明されているわけではないので完全に分かるとは言えません。
@劣性遺伝 父親と母親の双方からRPの遺伝子がコピーされて一対としてそろった時だけに子に発症します。患者と因子を持たない人が結婚した場合、子に発症することはありませんが全員が保因者となります。また、保因者同士が結婚した場合は4分の1の確立で発症する可能性があります。保因者と因子を持たない人が結婚しても子が発症することはありません。
A伴性遺伝 母親が保因者となります。伴性遺伝の保因者である女性が結婚すると、生まれる男の子の50%が発症し、女の子の50%が保因者となります。
B優生遺伝 この型の親から生まれる子供は2分の1の確率でRPになります。男の子でも女の子でも同じです。
Cその他 上記3つの遺伝形式では説明できない場合も確認されています。