JRPSが設立された1994年当時には治療法は全くなく、アダプチノールやビタミン剤が処方されるのみでした。孫子の時代までには治療法を、と言われていました。しかし現在は日本も含め世界中で治療法の研究が活発に行われ、臨床研究や治験が行われるようになり、一部のタイプには治療も実施されるようになりました。
以下各分野の代表的な研究をご紹介します。
視細胞の周辺環境を改善して寿命を延ばそうというアプローチです。遺伝子変異の種類に左右されない効果を目指しています。新薬の開発だけでなく既存の薬剤から効果のあるものを探索したり、遺伝子治療による方法が熱心に研究されています。
現在見えている視力が保たれれば生活の設計がどれ程楽になるか知れません。
・九州・宮崎大学の神経保護遺伝子治療
https://www.miyazaki-u.ac.jp/newsrelease/edu-info/post-766.html
神経栄養因子(PEDF)を分泌するように加工した遺伝子を網膜の下に注入し、眼の中で薬を作り出し、視細胞の寿命を延ばそうという方法です。2013年3月に最初の臨床研究が行われ現在は治験が進行しています。
・日本医科大学の硝子体投与方式遺伝子治療
https://nms-ganka.jp/field_s/gene_therapy.php
同様に神経栄養因子(BDNF)を用いて進行抑制しようとするものですが、遺伝子ベクターを網膜下ではなく硝子体に投与することで網膜剥離のリスクを回避しようとする方法です。
・京都大学の分岐鎖アミノ酸製剤
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news/2019-02-21
肝硬変の薬である分岐鎖アミノ酸製剤に進行を遅らせる効果があるとして2020年12月まで70名の患者に治験を行い、現在その結果の評価中です。優位な効果が認められれば第三相試験を目指すとしています。
・理化学研究所のリードスルー薬の開発
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19K09984/
遺伝子の変異部分を読み飛ばす薬剤を開発し、阻害されていたタンパク質合成を再開させることで機能を維持しようとするアプローチです。
http://www.cdb.riken.jp/research/laboratory/takahashi.html
https://www.riken.jp/press/2022/20220121_1/index.html
iPS細胞やES細胞を用いて視細胞や網膜組織を作り移植しようとする方法です。2020年10月に1例目、2021年2月に2例目が実施されました。
iPS細胞の登場当初は、自分の細胞から移植組織を作ることで免疫反応が起こらないことが大きなメリットとされましたが、iPS細胞の作製から目的組織の培養まで10ヶ月近くかかり、膨大な費用がかかるため現在では免疫反応の少ない型の他人のiPS細胞から網膜組織を作る他家移植が採用されています。
そもそも間違っている遺伝子の場所を修正してしまおうという根本治療です。しかし、先に述べましたように原因遺伝子が非常に多いためオーダーメイド治療になり現実的ではないと言われてきました。しかし、2008年に10代で失明に至る極めて重篤なレーバー先天盲で遺伝子治療が行われ、視力の改善が確認されました。日本でも数年後には実用化される見込みです。
このことから原因遺伝子の解明と修正の技術が向上すれば、例えば、子供が遺伝しているかを調べ発症前に治療することが可能になります。
これは、機能低下した視細胞に換えて、カメラの映像をコンピュータ処理して網膜の近くに設置した電極を介して視神経あるいは脳に直接信号を届けようとするものです。 ドイツ、アメリカ、日本など多くの国で活発に研究されており、既にセコンドサイト社のアーガスUはアメリカとEUで承認され販売されています。
・大阪大学の人工網膜
https://21c-kaitokudo.osaka-u.ac.jp/news/2016/xjm9wd
すでに複数の患者に手術し光を感じることを確認しています。電極を複数入れることにより視野を広げ歩行できるようにすることを目指しています。
人工網膜は、肉眼の映像には比べることができませんが全盲あるいは光覚まで進んだ患者にとっては有効な手段となることが考えられます。また実用化は遺伝子治療や再生医療に比べ早いと言われています。
https://modia.chitose-bio.com/articles/57/
減少してしまった視細胞に代えて、網膜にある神経節細胞に光感受性を持たせることで視覚を再建しようとする方法です。
・岩手大学のチャネルロドプシンを用いた視覚再生
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18K09433/
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-16H05485/
緑藻類が持つチャネルロドプシンを改変した遺伝子を神経節細胞に導入して資格を得ようとする研究です。
・窪田製薬のオプトジェネティクス治療法
https://jp.reuters.com/article/idJP00093500_20200327_00820200327
・藻類のたんぱく質で視力回復、光遺伝学を応用(フランスの研究 BBC News, )
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-57236858
新しい治療法を人に対して行う時、臨床研究と治験の二つの方法があります。臨床研究は医師法によるものであくまで研究段階といえます。それに対して治験は治療法として承認を受けるために行うもので医薬品医療機器等法によるものです。
一般的に治験は第一段階で少数の患者にその薬や治療法の安全性を確認します。安全性が確認されると第二段階として少し人数を増やして効果があるかどうかを試験します。そして効果があったと認められた場合は、第三段階として複数の施設で多くの患者に対して試験を行います。ここで効果があると確認できて初めて新薬・治療法としての申請が行われます。
治験にはこのような手間と時間がかかるため膨大な費用がかかります。そのため一般的にその新薬や医療器具を生産販売する企業がその費用を負担してはじめて実現します。