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●医療講演会報告 池田華子先生
 〜網膜色素変性症に対する新規神経保護治療法開発研究〜

文責 佐々木裕二 

 6月18日総会の午前中に京都大学の池田華子先生の医療講演会を開催しました。眼の構造や検査の方法、様々な治療法研究などのお話しがありましたが、ここでは池田先生の研究について要点を報告します。
 なお、こちらから音声を聞くことができます。
スライドを使って説明している講演の写真です。


 今日は二つの話しをさせていただきます。
 一つはVCPと呼ばれるATPase(エーティーピーエース)の阻害剤のお話しです。もう一つが分岐鎖アミノ酸という話になります。

●まず、VCPと言いますのはバロシンコンテイニングプロテインの頭文字です。日本語ではバロシンを含んだタンパク質ということです。このタンパクは体中の全ての細胞に存在するタンパク質です。細胞の中ではATPというエネルギーのお金があるんですけどもこれを使って色々なタンパク質が働いて細胞を元気な状態に保っています。このATPを消費してしまうATPaseという種類に属するタンパクになります。
 普段身体の細胞は様々なストレスにさらされています。こすれたり熱いものが入ってきたり、年齢の変化でかかるストレスもあります。それを細胞は色んなタンパクの悪いところを治してくれるという働きで普段は元気でいられるシステムがある訳なんです。ただそのストレスの傷害あるいは傷ついたものが大きいとそんな元気じゃない細胞が増えては困りますのであるところで、このVCPというタンパクが働き出してこの細胞はもういらないと細胞死を起こすというようなメカニズムを持っているということです。
 そしてVCPが細胞の中のATPを壊していくという働きはストレス下にある細胞にとっては良くないということが分かってきました。ということはこのVCPのATPを加水分解するという働きを抑制してやれば細胞死を防げるんじゃないかと考えてずっと開発をしてきました。

 実際に全く今までになかったような化合物を作っていきました。京大で開発してきましたので、KUS(京都ユニバーシティーサブスタンス)と名前を付けて1番から200番くらいまでたくさんの種類を作ってきました。面白いことにこのVCPのATPaseの阻害剤でありますKUS剤というのはそういう死にかかっている細胞を細胞死から抑制するという効果があることが分かってきました。
 例えば培養細胞にグルコースというエネルギーをあげないと細胞が死んでしまいます。ところがグルコースをあげていなくてもKUS121番あるいは187番を入れておいてあげるだけで細胞が元気な訳なんですね。消してこのKUSがエネルギーではないんですけどもエネルギーがなくても細胞が死なないということが分かります。

 そこで視細胞が死なないようにできるんじゃないかと考えて実験をしていきました。まず、モデルマウスを使って実験をしました。RD10マウスと呼ばれるモデルで、寿命が2年くらいです。生まれて2週間くらいで目が開いてきます。目が開いて光が入った瞬間から視細胞が変性してしまってほぼ1ヶ月くらいで光を感じる杆体視細胞がなくなってしまうような変性のスピードが速いマウスになります。
 このマウスに目が開く前からこのKUS剤を毎日全身に投与しまして変性が始まった頃、21日目、25日目、29日目それからほとんどなくなってしまう33日目にOCT(光干渉断層計)とERG(網膜電図)の検査をしてみました。
こちらに正常なマウスのOCT画像を示していますが人とほとんど同じに各細胞がどれくらいあるかというのが非常にきれいに分かります。視細胞の層の厚みを見ていくことでマウスがどれくらいのスピードで視細胞が変性しているか、残っているかが分かることになります。
 もう一つ細胞が残っていてもそれが働いているか確認するために、マウスでは視野や視力の検査ができないので網膜電図(ERG)を使うことにしました。これだと光を当てた時にマウスはものを言いませんが光を感じていれば波が出てきます。これで視力を検査することにしました。

 こちらのスライドに代表的な例を示しています。生まれて25日目の上がOCT、下がERGの検査結果になります。正常なマウスに比べますとKUSを投与したものではまだほぼ同じくらいの視細胞の層が残っていますが、治療していない方ではその厚みがだいぶ薄くなってしまっています。視力検査もKUSを入れるとERGの反応がほぼ正常な視力を保っています。治療していない方は波がだいぶ小さくなっていて光を感じにくくなっているということが分かります。
 そこから4日五の29日目の状態を示したスライドですが、OCT像はやはり治療していても視細胞の層は先程と比べると薄くなっているんですが、未治療の方はOCTではほとんどどこが視細胞か分からないくらい薄くなってしまっています。その時のERGはKUSを投与しているとまだ光に反応してくれていますが、治療していないと光を感じない全然波がなくなってしまっています。
 それから4日五、網膜がどうなっているか切片を取ってみると治療していないと視細胞はほとんどもう一層です。これはかろうじて錐体細胞が残っているけど杆体細胞はほとんどないという状態になっているんですがKUSを投与しておくとまだしっかりと視細胞があるべき層に何層か細胞が積み重なっていてしかも光受容をするのに大事な外節という部分も残っている。それに伴って視力検査上ではKUS投与のものでは波があり無治療のものとは全然様相が違います。
 この実験で分かりましたのはKUS剤を投与すると網膜が薄くなるスピードや視力が悪くなるスピードがゆっくりになる。決してそのままとめてくれるというものでは残念ながらないんですが、ゆっくりになります。25日で全く見えなくなってしまうマウスがまだ33日でも見えているということで30%程度視機能を延長してくれるのかなと思われます。

 実際に患者さんに投与するということになると症状がでている状態から投与していく事になりますので、次にRDの12というマウスを使うことにしました。このマウスは1歳から2歳に欠けてゆっくりと視細胞が変性してくるマウスになります。
 このマウスに13ヶ月、50歳を過ぎた頃、だいぶ変性が進んでいる頃に投与を開始しましてそれから半年間見ていく、人に換算すると2〜30年見ていくことになるんじゃないかと思いますが、それくらい見ていくことにいたしました。
 そうしますと先程と同じで13ヶ月目はまだ治療していないので両方同じ厚みなんですが、半年後には無治療のものと比べるとKUSを投与していると明らかに網膜が厚い状態で保たれている、つまり網膜が薄くなってくるのを抑制しているというのが分かりましたし、視力の低下が抑制される事が分かりました。つまり病気が進んだ状態から投与しても進行を抑制してくれるというのが分かってきました。

 ここまでくると患者さんを対象とした臨床試験はいつからなんですか?ということになりますが、実際に色んな製薬会社の方に何とかこれやりたいのでお願いしますとお話ししましたが、色んな問題点があるということで誰も相手にしてくれませんでした。何が問題かといいますと、このKUSというのが全く初めて私たちが作り出した物質なんですね。今まで薬として使ったことも世の中に存在していたものでもない、しかも網膜色素変性症の患者さんで神経保護の効果を判定しようとすると短くても半年、普通考えると2年か3年ずっと投与し続けて、2年後投与した方としなかった方で比較をしないと何も結果が出てこない。そんな2年も3年も見ているんですか。目薬では目の奥に到達が難しいので全身で投与しなければならないとなると全身の副作用が出てきたら大変だ大変だ、恐い恐い。ということで日本含め海外のメーカーにも色々話しをしたんですがどこも取りあってもらえませんでした。
 このままではどうしようもないので自分たちでやろうということで、もっと短期間でこの神経の保護効果の判定ができる病気、眼の中に注射ができ治療法がない重い病気じゃないといけないということでまず網膜中心動脈閉塞症というもので臨床応用を図るということをしてきました。この病気は脳梗塞と同じ、それが網膜に起こるという状態でして、何時何分に見えなくなったと訴えられます。こうなると数日で細胞が死んでしまって悪い状態が続いてしまいますので発症して急性期に3回だけ注射で薬剤を入れる方法で去年の秋からKUS剤の効果を判定する医師主導治験を始めています。
 この治験は今年度中には終わらせて、来年度にはできれば第3層試験というもうちょっと大きな試験を組んでこの病気に対しては薬として認めてもらうような申請に動いていきたいと思っています。
 今年度で終わる試験でこのKUS剤というのが人でもちゃんと神経を保護しているというのが証明できれば次は色素変性の患者さんを対象にした治験を計画していきたいと思っています。
 ただ、今あるのは注射剤でして注射を色素変性の方に2年3年毎日続けるわけにはいかないので今頑張ってこれを目薬に、目薬で網膜に伝えたい、あるいは飲み薬でもうちょっと安全になるようにしたい。ということを日々検討しています。

●分岐鎖アミノ酸製剤
 分岐鎖アミノ酸というのはその名前の通り枝分かれを持つアミノ酸で、ロイシンとイソロイシンとバリンというものが該当します。人では必須アミノ酸、つまり外部から摂取しないと自分の身体の中では作れないという非常に大事なアミノ酸です。身体の中で何をやっているかというと筋肉とか脳、つまりエネルギーを非常にたくさん必要とする場所でエネルギーに換わるということをしています。エネルギーというところに着目して研究を進めてきました。そうすると先程のKUS剤と同じで分岐鎖アミノ酸には細胞を守るという働きがあることが分かってきました。 先程と同じに細胞が死ぬような条件に置いておくんですが、分岐鎖アミノ酸をあげているだけで元気なんですね。さっきと全く同じです。
 RD10マウスを用いて検討しました。、そうすると先程と同じで視細胞が薄くなってくるのを抑制しますし、ERGの検査から視力低下を防ぐということが分かってきました。病気が出てしまったRD12マウスでも治療半年で網膜が薄くなるのを抑制してくれるし、視細胞が減るのを抑制してくれることが分かってきました。つまりこの分岐鎖アミノ酸製剤というのは網膜の色素変性のモデルマウスで視細胞の変性を遅らせて視力の維持効果があるということが明らかになりました。
、この分岐鎖アミノ酸製剤、はリーバクトという味の素製薬が作っている肝硬変の薬です。いいじゃない、色素変性の患者さんに使いたいということで味の素さんと色々相談をしてきました。ところがこの会社は昨年の春にEAーファーマと合併してしまった。EAファーマは何かというと消化器疾患に特化した製薬会社で、眼科、そんなところはしませんと会社の方針として決められています。
 私たちとしては折角薬で安全なものであってもそうなっているので、色素変性の患者さんを対照にしてちゃんと治験あるいは臨床研究をして実際に患者さんでもある程度の効果があるということを証明していきたいと考えています。
 ここ1年半、2年準備を進めてきました。つい先週までは協力企業が見つかりませんと書いていたんですが、先週になってようやく協力企業が見つかってきた状態です。ただお金のことをいうのは何なんですが、実際、臨床の研究治験を始めようと思うと2億3億円規模の費用がかかってきます。何とか公的な資金を獲得すべくガンバッテいるんですけども資金の目処が立てばすぐに研究を始めたいなと考えています。
 実際準備として治療前に患者さんがどれくらい進んでいるのかを検査する臨床研究はスタートしていてそういう方に投与していくことを考えております。

●KUSが患者さんに投与できるところまで来ているのは国の公的資金も入っているんですが、この開発のために京都創薬というベンチャー企業を眼科のメンバーが作ってくれていましてそこからの資金調達というのがとても大きいです。今後色素変性に使える点眼剤としての開発ですとかも京都創薬が中心となって動いてくれるかと思いますので機会を見つけてご紹介させていただけたらと思います。
以上になります。

※ご注意
 軍旗差アミノ酸はサプリメントででていますが試験で用いたリーバクトの一日量をサプリで摂ることはできません。サプリを大量に摂ると混ざりものがあるので絶対にしないで下さい。とのことでした。

 笑顔の池田先生の写真

池田先生の略歴
 1999年 京都大学医学部卒業
 1999年 京都大学医学部附属病院 眼科
 1999年 天理よろづ病院 眼科
 2002年 先端医療財団 知的クラスター 研究員
 2005年 京都大学 医学部附属病院 探索医療センター 網膜再生プロジェクト医員
 2006年 滋賀県立成人病センター 眼科 副医長
 2009年 京都大学 医学部附属病院 眼科 助教
 2014年 京都大学医学部附属病院 臨床研究総合センター


**この講演会はNHK歳末たすけあいの配分金により開催しました**